命を脅かす危険ないびき ~歯科で行う閉塞性睡眠時無呼吸症候群治療~

執筆者
神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員 大川原 亨

「日中ずっと眠いです」「いびきがひどいと言われて・・・」

老若男女問わず切実な悩みをうちあけられることがあります。会議の席や運転中といった、本来ならば気を張っているべき肝心な場面で不意に強烈な眠気に襲われ、ときに高いびきをかきながら寝落ちする。赤っ恥で済めばまだいいのですが、近年これが引き金となった大惨事と大きく報道された実例として、

2012年関越道藤岡ジャンクションで高速ツアーバスが防音壁に衝突
同年首都高速湾岸線でトラックが多重追突
2014年北陸自動車道SAで駐車していたトラックに夜行バスが衝突
2018年の横浜市内国道で路線バスが乗用車に追突

など多数の死傷者が発生した事故が挙げられます。 (資料1)

その原因が閉塞性睡眠時無呼吸症候群であることは、つい20年ほど前まではあまり知られていませんでした。そのため、この異常ないびきと眠気を職場では怠け者扱い、家庭でも厄介者扱いされたと訴える患者さんが後を絶ちませんでした。しかし2003年、山陽新幹線の運転手が走行中居眠りし、停車駅で所定の位置に止めることができなかった事故がきっかけで問題提起されてからは、少しずつ社会全体で認識されてきました。また、ここ数年さらに議論されることにより、神奈川県内においても従業員検診の1つとして睡眠時無呼吸検査を取り入れた会社が見受けられるようになりました。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、深い眠りに入るとノド周辺の筋肉にハリがなくなり、舌などが沈下して上気道を塞ぐことで、呼吸ができなくなる(無呼吸)、またはしにくくなる(低呼吸)ため、体内の酸素が不足する病気です(図1)。いくら睡眠時間を確保しても、日中はまるで徹夜明けかの如く眠気と疲れが残っているだけでなく、頭痛といった症状も出現しやすくなります。知らぬ間に血圧が高めに維持されていることも珍しくなく、その結果、脳卒中や不整脈、虚血性心疾患などを惹起された患者さんも散見します。しかもご本人だけの問題にとどまらず、このいびきがあまりにも大音量でご家族が不眠になるなど、意外なところにまで影響を及ぼします。肥満でなければこの病気とは無縁ということもなく、なかには元来規則正しい生活を送ってこられた痩身の女性で、顎の骨格が原因で発症されたと考えられた患者さんもいました。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療法の1つとして、歯科で製作した装置を口の中に装着する方法があります(図2,写真1,2)。この方法は前述の新幹線事故の翌年2004年に保険診療に認可され、我々歯科医師が(閉塞性?)睡眠時無呼吸症候群の患者さんの重症度を評価した医師から加療依頼を受けることで、その患者さんに適した装置を製作します。患者さんがその装置を装着することにより、下顎は前に出た状態で固定されます。下顎の骨とノドに沈下していた舌は筋肉で繋がっていますから、重力により押しつぶされて塞がっていた上気道が開通し、呼吸しやすくなります。ただ、下顎が前に引っ張られたまま朝まで一晩過ごすため、歯や顎関節に痛みが出ることもあります。経過をみながらその装置の調整を行っていきます。どなたでも無条件に対応できればいいのですが、実際は患者さんの歯の本数や歯周病、むし歯の状態、顎関節症の有無などにより、装置をすぐ製作開始できない場合もあります。そのため、我々歯科医師の診断が必須となります。装着後もその装置が無呼吸の改善に寄与できているのか、医師による重症度の再評価が行われることもあります。

“最近なぜかスッキリと疲れがとれないな”

じつはあなたも知らぬ間に「危険ないびき」をかいているのかもしれません。やせ我慢せず、まずはかかりつけ医や近隣の診療所に問い合わせたうえで、医師、歯科医師に相談されてみてはいかがでしょうか?

 

参考文献

1.横溝一郎,星作男,高坂晋哉,大川原亨,中久木康一. はじめよう!保険でできるOSAS患者のOA治療. 東京:クインテッセンス出版, 2018;2.

2.横溝一郎. 一般診療所で実践する睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療はおもしろい!第1回~6回. WEB:DENTAL LIFE DESIGN

 

執筆者情報
大川原 亨
神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員
大川原歯科医院

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