フッ素によるむし歯予防

歯みがきだけでは防げない!?

  歯ブラシによる歯みがきはむし歯を防ぐ上で有効な手段ですが、それだけで十分なむし歯の予防するのは難しいといえます。

フッ素(フッ化物)を配合した歯みがき剤などを併用することが推奨されるのは、このためです。

今回は、フッ化物配合の歯みがき剤の選びかたや利用のしかた、歯科医院でのフッ素塗布の重要性などについてご説明します。

 

歯ブラシによるむし歯予防には限界がある?

 奥歯の溝の形態や深さには個人差があります。一般に歯の溝の直径は20μmぐらいであるのに対し、歯ブラシの毛1本の直径は約0.2mm(200μm)です(図)

このため、実は歯ブラシの毛はむし歯の原因となる歯垢のたまった狭い溝のなかには十分に入りません。

このように歯ブラシによるむし歯予防には限界があり、フッ化物配合の歯みがき剤を併用することが推奨される理由の1つとされています。

 

図 歯ブラシは歯の溝の奥には十分に入らない

 

 

フッ化物配合の歯みがき剤の選びかた、利用のしかた

フッ化物によるむし歯予防の安全性と有効性については、これまで75年以上の長きにわたって繰り返し確認されています。

子どもの歯は大人に比べ酸に弱く、むし歯になりやすいという性質があります。

生涯にわたって口と歯の健康を守るためには、小さいころからフッ化物配合の歯みがき剤を使って正しい歯みがき習慣を身につけ、むし歯予防に努めることが大切です。

お子さんに使うフッ化物配合の歯みがき剤を選ぶときは、次の2つのポイントを押さえるとよいでしょう。

 

1歯みがき剤は味が薄く、泡立ちが少ないものが理想的

ラウリル硫酸ナトリウムを配合した歯みがき剤は泡立ちやすいため、お子さんがむせて吐き出してしまうことがないとはいえません。

このため、ラウリル硫酸ナトリウムが入っていない歯みがき剤を選ぶとよいでしょう。

また、あまり甘みの強いものは、お子さんが甘いお菓子を食べたがることにもつながりますので避けたほうが無難です。

 

2高濃度のフッ化物が含まれているもの

2023年1月、日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会の4学会合同で作成した「う蝕(むし歯)予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」が発表されました。

これは、年齢別にフッ化物配合の歯みがき剤の使用量と濃度、使用方法を示したもので、以前に比べ高い濃度のフッ化物の使用が推奨されています。

少し専門的な話になりますが、この文書では1000ppmF以上の濃度のフッ化物濃度が推奨されるとともに、1000ppmF未満のフッ化物配合歯みがき剤ではむし歯予防効果が認められていないことも併記されています。

また、年齢に応じたフッ化物配合歯みがき剤の使用量と使用方法を示すことにより、有効で安全性の高いむし歯対策を行うための指針となっています。

お子さんはもちろん、ご家族全員のむし歯対策のためにも、ぜひご活用ください。利用方法がわからない場合は、かかりつけの歯科医院で指導を受けるとよいでしょう。

 

 

 

 

歯科医院でのフッ素塗布の重要性

 

歯科医院で行うフッ素塗布がむし歯予防に役立つ理由や方法についても、触れておきましょう。

歯垢に含まれる細菌が作り出す酸によって、歯の表面からカルシウムやリン酸イオンが溶け出すことを「脱灰(だっかい)」といいます。

また、脱灰によって溶け出したカルシウムイオンやリン酸イオンが唾液によって再び歯に取り込まれ、エナメル質を修復することを「再石灰化」といいます。

歯の表面にフッ素を塗布することがむし歯予防に役立つのは、このような歯の脱灰を抑え、再石灰化を促すためです

日本の歯科医院で一般に用いられるフッ化物塗布剤のフッ化物濃度は、9,000ppmです。乾燥した歯の表面に、こうした高濃度のフッ化物を3〜4分間塗布すると、歯の表面にフッ化カルシウムが生成されます。

このフッ化カルシウムは水や唾液には溶けにくいのですが、酸には溶けるという性質をもっています。フッ化カルシウムは歯の表面に数週間は残っており、酸に少しずつ溶けてCaイオンとFイオンになります。

歯の表面に供給されるFイオンは、歯の脱灰を抑制し、再石灰化を促進するとともにフッ素化アパタイトをつくります。

このフッ素化アパタイトは酸に溶けにくいため、むし歯になりにくくなるというわけです。

ただ、このフッ素化アパタイトは食事や歯みがきなどで徐々に消失するため、定期的、継続的に繰り返し塗布する必要があります。

このため、かかりつけの歯科医院に定期的に受診することが大切です。

その期間については、1人ひとりのお口のなかの環境が異なりますので、かかりつけの歯科医院の先生ご相談ください。

 

 

参考

「乳幼児から高齢者まで すべての患者さんへのフッ化物活用ガイド」 荒川浩久 インターアクション株式会社

「デンタルカリエスエッセンシャル」Edwina Kidd、Ole Fejerskov 医歯薬出版株式会社 公益社団法人日本小児歯科学会

 

執筆者

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員 ファミーユデンタルクリニック 真下純一

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