矯正歯科治療の医療費控除~受けられる場合、受けられない場合~

矯正歯科治療(きょうせいしかちりょう)を希望される患者さんや保護者の皆さんから、「矯正歯科治療は医療費控除の対象となるのですか」という質問をよく受けます。
結論から申し上げると、医療費控除の対象となる場合とならない場合のどちらも存在します。
以下、できるだけ分かりやすいご説明に努めますが、あくまでも一般的な事例に準じたもので、実際には納税者を所轄する税務署の判断となることをご留意ください。

控除の対象となる「医療費」とは

医療費控除の対象となる「医療費」は、「医師による診療または治療の対価で、一般的に支出される水準を著しく超えない範囲の金額」と定義されています。
つまり、医師が保険で認められた疾患に対して行った医療行為や使用した医薬品、医療材料などの費用が、医療費控除の対象となると考えればよいでしょう。
歯の治療については、保険のきかないいわゆる自由診療によるものや高価な材料を使用する場合などは、基本的に医療費控除の対象にはなりません。

矯正歯科治療で控除の対象となる場合

矯正歯科治療とは、不正咬合(ふせいこうごう:噛み合わせが悪いこと)などの場合に行う歯列矯正(しれつきょうせい)などの治療を指します。
こうした治療が医療費控除の対象になるのは、どのようなケースでしょうか。

たとえば、幼児期に噛み合わせが悪いと、食べものをよく噛んで飲み込むことができず、健全な成長に必要な栄養が十分に摂れなくなるおそれがあります。
また、滑舌(かつぜつ)が悪くなり、学習や遊びなどでのコミュニケーションに支障をきたすこともないとはいえません。
さらに、思春期を迎えて見た目に悩んだり、いじめにあったりすることも考えられます。
このような場合、不正咬合の歯列矯正は発育段階にある子どもが心身ともにすこやかに成長する上で大切な治療といえるでしょう。

見た目をよくするだけの治療は対象外

矯正歯科治療が医療費控除の対象となるのは、このように治療を受けるご本人の年齢や目的などからみて、社会通念上、必要と認められる場合ということになります。
 このため、矯正歯科治療の目的が見た目を美化したり整えたりする、いわゆる「審美目的」のみである場合は対象外です。

医療費控除は、診療や治療に要した医療費のほか、通院のために公共機関を利用した場合の交通費も対象となります。
また、歯科ローンを契約した場合、契約が成立した年の医療費が控除の対象となります。ただし、金利や手数料は対象外です。

医療費控除の金額は、家計の年間の医療費の総額から保険金などで補填される金額を引き、さらに10万円を引いた額の10%とされています(表)。
医療費控除を受ける場合は「医療費控除明細書」に必要事項を記入し、確定申告をする必要があります。


高額療養費制度について

不正咬合の原因が、保険適応となる先天性の疾患や顎変形症などであることも少なくありません。こうした疾患で外科手術を受ける場合、高額療養費制度の対象となる可能性が高いといえます。

高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月(歴月:1日から末日まで)で上限額を超えた場合、その超えた額を支給するというものです。
助成を受けるには、加入されている健康保険組合から「認定証(限度額適用認定証)」を発行してもらい、医療機関の窓口に提示する必要があります。

以上、矯正歯科治療の医療費控除、高額療養費について基本的なことをお話ししました。
ご不明な点があれば、かかりつけの歯科医院にお問い合わせください。適切にアドバイスいただけるはずです。

■参考

国税庁ホームページ 
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm

神奈川県歯科医師会会員・川崎市歯科医師会会員
かわさきノエル矯正歯科 松原 望

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