[かむカム15号/1998年03月]より 歯のまめ知識かむカム歯の話

歯はかむほかにいろいろな働きをしている

軟らかい倉物ばかりがもてはやされる昨今、人々はかむことを忘れてしまっているようです。
弥生時代に4.000回、戦前でも1.400回であった1回の食事で噛む回数が、今ではなんと600回です。この噛まない生活が全身の健康にとってどのような影響を与えているのでしょうか。高齢化時代を迎えて健やかに老いるために、今回は噛むことの効用について改めて考えてみることにしました。

丈夫なあごや、歯肉をつくる。

歯は歯根膜と呼ばれる無数のたんぱく質せんいによって、あごの骨に結びつけられている。噛むという機械的刺激は、このせんいを通してあご全体に分散されて組織を作っている細胞に力を与える。

あごの骨は小学校入学の頃から急速に成長するが、最近はハンバーグやスパゲティなど軟食化が進み、あごが余り使われず充分に発育しない。しかし歯の本数と大きさは変わらないのだから、小さなあごに並びきれずに歯列不正となる。

食物がはさまってむし歯にも歯周病にもなりやすくなる。左右の歯並びが極端に違うと顔もゆがむ。さらに背骨まで曲がることにもなりかねない。恐ろしいことである。噛まない習慣は若者に歯周病やあごの関節症を増やす。歯ぐきの骨の細胞はカルシウムなどの栄養を取り込むが、噛む力が弱いと代謝機能がうまくいかず、骨が発育不良になり次第に歯ぐきの抵抗力も弱まる。

また、噛むことによって分泌が促進される唾液中のパロチンというホルモンは、血液の中に入り骨や歯肉を丈夫にする。さらに歯は萌出後も唾液から浸透してくるカルシウムやフッ素によって再石灰化が絶えず行われ、丈夫にもなる。
よく噛むことにより分泌される唾液には歯や歯肉をきれいに掃除する自浄作用、食物の中の酸を薄める中和作用などもあり、むし歯や歯周病の予防にもなっている。

 

"がん"の毒性を薄める効果も

よく噛む事によって唾液は大量に分泌される。唾液の中にあるペルオキシダーゼという酵素には、発がん性物質の毒性を薄める効果があるといわれる。唾液を混ぜる時間が長いほど毒消し効果は強く、毒性が元の1〜2割に薄まるのに約30秒を要するとか。成人でも子供でも、1回噛むのに大体1秒かかる。
「食事は1口30回」が望ましいわけがここにある。なぜ、毒性が消えるのだろう。
発がん性物質が作り出す活性酸素を、唾液に含まれるペルオキシダーゼが消してしまうらしい。
このほかにも有害な細菌の発育を妨げるタンパク質など様々な有効成分が唾液には含まれている。

体温上げて肥満を防ぐ

よく噛んで食べると食後に身体がポカポカして発汗が盛んになる。
熱として体外にエネルギーが捨て去られることによって肥満の予防になる。
よく噛んで食べて味覚が刺激されるとノルアドレナリンの分泌が高まり、全身の細胞の活動が活発になる。これが熱の発生源になることになる。
また、栄養分が消化吸収されると血液の血糖値が上がり、大脳から、もう食べたくない"という指令が出る。急いで食べると血糖値が上がる前に沢山食べてしまう。
よく噛んで食べると少ない量で満腹感が得られるということである。

発育を支えボケを防ぐ

噛むことの刺激で脳血管が拡張して血流が増える。脳の活動を高めるには血液がぶどう糖や酸素などの栄養分を運ぶ必要があり、血流量の増加が、脳の覚醒の条件の1つになる。脳の延髄と間脳の間の網様体が目覚め信号を出す。噛む動作は脳の中枢神経を仲立ちとして、運動や呼吸、ホルモンなどをつかさどる内分泌の働きと複雑に絡み合っている。
噛むことによって分泌されるパロチンには、子供の発育促進、大人の老化防止の働きもあり、これらがあいまって噛むことは老人性痴呆の防止に役立つことになる。以上のほか、よく噛むことにより水晶体の筋肉の老化が間接的に防止され視力の回復につながる、首すじや肩、胸の筋肉が正しく働くことによつて姿勢がよくなるなど、多くの効用があげられている。ものを噛むことは筋肉の老化を予防し、噛む衝撃で脳血管障害が予防されるといわれるのですから高齢化時代を迎えて噛むことが見直されていることは至極当然といえる。