インプラント治療は誰でも受けられますか?その2

骨粗鬆症治療薬、糖尿病、金属アレルギー、歯周病などにご注意!!

インプラント治療を成功に導くためには、骨粗鬆症治療薬のビスフォスフォネート製剤の投与の有無、糖尿病のコントロール状況、金属アレルギーの有無、放射線治療を受けておられるかどうか、歯周病の有無と症状などを確認する必要があります。

骨粗鬆症治療薬

骨粗鬆症などの治療のためにビスフォスフォネート系薬剤を処方されている患者さんは、すぐにインプラント治療ができない場合があります。
その理由は、ビスフォスフォネート系薬剤には発症頻度は低いものの重大な副作用としてビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死(Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaws : BRONJ)を生ずる可能性が指摘されているためです。
BRONJは2003年に世界で初めて報告されて以来3)、日本でもさまざまな報告や考え方が示されています4.5)。原因はまだ十分に解明されていませんが、ビスフォスフォネート系薬剤の作用により歯の根元やあごの骨の正常な成長が妨げられ、ついには壊死してしまうと考えられています。
ビスフォスフォネート系薬剤には内服薬と注射薬があり、通常、骨粗鬆症の治療に使われる内服薬の用量でBRONJを発症する頻度は低いとされています6)
一方、ビスフォスフォネート系薬剤は、乳がんなどの悪性腫瘍の治療のため注射薬として比較的高用量で投与されることもあります。
このような患者さんやビスフォスフォネート系薬剤とステロイドを併用している患者さんは、BRONJ を発症する可能性が高いため、インプラント治療は原則として禁忌となります。

糖尿病

糖尿病は、インプラント治療時のリスク、インプラント治療の成功を妨げるリスクの両面で問題となります。
血糖値が十分にコントロールされている場合でも、糖尿病を発症してからの期間(罹病期間)が長い患者さんは他の病気が潜んでいる可能性がありますので、全身状態の確認が必要です。
また、インプラント治療中に低血糖が起きるとショック状態に陥る可能性があります。一方、術後に高血糖が起きると組織や細胞が低酸素状態となり、手術で切開したあとのきず(切開創)が治りにくかったり炎症が起きたりするリスクが高まります7)
したがって、糖尿病の患者さんがインプラント手術を希望される場合、かかりつけの内科の主治医の先生とよく相談される必要があります。

金属アレルギー

インプラント体の多くは、純チタンを材料につくられています。
従来、チタンはイオン化しにくく、生体になじみやすい素材であるため、金属アレルギーを起こすリスクは低い考えられていました。しかし、整形外科領域では1990年代からボルトやプレートに使われたチタンによる金属アレルギーが疑われる症例の報告があり、近年ではインプラント治療でも金属アレルギーと考えられる報告がみられます8~10)
金属アレルギーを発症すると、インプラントを埋め込んだ周囲に慢性の炎症反応が起こり、粘膜が赤く腫れたり、水疱ができたり、ただれたりといったインプラント周囲炎を発症することがあります。このため、インプラント治療の前にパッチテストや血液検査を行ない、金属アレルギーの有無を確認する必要があります。

放射線治療

一般に、がんなどの治療のために放射線治療を受けている患者さんの場合、外科的な処置は慎重に行わなければならないと考えられています。インプラント治療は外科的治療であり、特に放射線を当てた部位に行うと骨髄炎を起こすことがあるため避けたほうがよいでしょう。
また、放射線治療を受けると唾液の分泌量が少なくなり、唾液による緩衝作用や抗菌作用が低下して虫歯や歯周病になりやすく、治りにくいといわれています11)
インプラント周囲炎も起きやすくなりますので、インプラント治療後に放射線治療を行った場合、メンテナンスをよりしっかりと受ける必要があります。

歯周病

歯周病があると、インプラント周囲炎の発症リスクが高まると考えられています(図2)12)
このため、お口のなかの衛生状態が保たれているかどうかを確認し、プロービングポケットデプス(PPD)、プロービング時の出血(BOP)、歯の動揺度の検査などの「歯周組織検査」を行なう必要があります。
こうした検査の結果、歯周病があると診断された場合は歯周病の基本治療から行うのが原則です。逆にいえば、お口のなかの衛生状態が改善しない患者さんにはインプラント治療をお勧めできないということです。
インプラント治療を希望される患者さんは、まずはしっかりと歯周病の予防・治療を心がけていただきたいと思います。

図2 インプラント周囲炎の進みかた

噛み合わせやあごの骨の状態を見きわめて治療に臨みましょう

インプラント治療の術前には、患者さんの歯やお口のなかの状態がインプラント治療に適しているか、またインプラント治療が本当に最適な治療であるかどうかを判断するための検査も重要です。
具体的には、歯が欠損した部位の状態、むし歯やかぶせ物、入れ歯など残存歯の状態、さらには咬み合わせに問題がないかどうか、顎関節症の有無など咬合(こうごう)関係などについて詳しく調べる必要があります。

顎関節・噛み合わせの評価

咬合関係の評価としては、上あごと下あごの歯の位置関係が正しいか、きちんと噛み合っているか、「噛みしめ」や「食いしばり」のような癖(歯列接触癖:TCH)がないか、口を開ける大きさ(開口量)、口を開閉する運動(開閉口運動)に異常がないかなどを評価します。
開口量が小さいと、奥歯のインプラント治療を行う際、ドリルを装着したハンドピースの操作ができず、インプラント体を埋め込むことが困難だったり、できなかったりすることがあります(図3)。
また、TCHがある場合はインプラント治療後に痛みを生じたり、インプラント体やかぶせものが壊れたり、脱落したり、スクリューが緩んだりといったトラブルの原因にもなります 13.14)
このため、こうしたトラブルを防ぐためにもTCHを直すための指導を受けることが望ましいといえます。TCHのコントロールができていない場合、せっかく受けたインプラント治療の効果を長期間維持できない可能性があります。

図3 口が大きく開かないと奥歯に手術器具が入らないことも

 

インプラント体が入る顎の骨の状態が悪い場合

インプラント治療は、そもそもインプラント体を埋め込むためのあごの骨の状態がよくなければ行うことができません。このため、私たちはパノラマエックス線写真や3次元で解析できるCTを使ってあごの骨の状態を診断しています15)
こうした画像検査の結果、あごの骨が十分に存在せず、そのままではインプラント体を直接骨に埋め込むことができない場合があります。
しかし、こうした場合でも骨移植などを併用することで対応できる可能性がありますので、担当医の先生とよくご相談なさってみてください。
最初に受診した担当医の先生がご自身のクリニックでのインプラント治療が難しいと判断された場合、必要に応じて骨移植ができる大学病院などのインプラント治療の専門医をご紹介いただくとよいでしょう。
骨移植などと併用することで、インプラント治療が受けられるかもしれません。

前回:インプラント治療は誰でも受けられますか?その1

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員
加藤デンタルクリニック 加藤道夫

参考文献

3) Pamidronate (Aredia) and zoledronate (Zometa) induced avascular necrosis of the jaws: a growing epidemic.Marx, R.E.J Oral Maxillofac Surg. 61: 1115-1118. 2003.
4) ビスフォスフォネート投与と関連性があると考えられた顎骨骨髄炎ならびに顎骨壊死に関する調査 島原政司ほか 日本口腔外科学会誌53: 594-602. 2007
5) 国内のビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパー ビスフォスフォネート関連顎骨壊死検討委員会 改訂追補 2012 年版
6) What is the impact of bisphosphonate therapy upon dental implant survival? A systematic review and meta-analysis.Ata-Ali J, Ata-Ali F, Peñarrocha-Oltra D, Galindo-Moreno P.
7)よくわかる 口腔インプラント学 第2版 赤川安正ほか 医歯薬出版,東京,74,2011
8) Suspected association of an allergic reaction with titanium dental implants: a clinical report.Egusa H, Ko N, Shimazu T and Yatani H J Prosthet Dent, 100: 344-347, 2008.
9) インプラント中の金属アレルギーによる皮膚障害が疑われた10症例の検討 中川真実子,矢上晶子,清水善徳ほか 日皮アレルギー会誌 2009;3:32-41
10) インプラント治療後に口腔扁平苔癬が発症した症例の報告 加藤 道夫, 加藤 亜希子, 伊藤 珠里, 山本 佳奈, 中村 恵理 日本口腔インプラン学会誌 29 巻 (2016) 2 号 p. 131-135
11) 放射線照射症例におけるオッセオインテグレーテッドインプラントの応用 新美 敦他 頭頸部腫瘍 24(1), 44-49, 1998
12) 重度歯周炎患者の歯周治療の予後に影響を及ぼす患者レベルのリスク因子分析 三辺 正人他 日本歯周病学会会誌 55(2), 170-182, 2013-06-28
13) 疼痛のあるインプラント患者における疼痛緩和の1つの方法としての上下歯列接触癖是正指導の提案 加藤 道夫、加藤 亜希子、伊藤 珠里、山本 佳奈、中村 恵理、横井 和弘、森田 雅之、佐藤 淳一 日本口腔インプラン学会誌30 巻 (2017) 1 号 p.18-22
14) 日中のブラキシズムがインプラント上部構造に与える影響 田邉憲昌 日口腔インプラント誌 2016;29:79-85.
15) インプラントの画像診断ガイドライン 第2版 林孝文,ほか NPO法人日本歯科放射線学会. 歯科放射線診療ガイドライン委員会,6-11, 2008.

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