治療後に痛みが起こるのはなぜ?

安心して治療を続けてください

 最近では、日本でも「歯科医院はむし歯をつくらないようにするために行くところ」という予防歯科の考えかたが、だいぶ浸透してきたと思います。しかしながら、まだまだ大半の方が「歯科医院は歯が痛くなったら行くところ」「痛みを止めてくれる場所」というイメージをもっていらっしゃるのではないでしょうか。私たち歯科医師からすると、このように「痛みがある」というのは、むし歯がかなり進んでしまっている状態といえます。このため、神経をとったり歯そのものを抜いたりするなど、不可逆的な治療をほどこさなくてはならないことが多いものです。
 本来、治療を要する初期の段階では、ほぼ無症状であることが大半です(図)。痛いところを治してくれるのであれば納得はいきますが、痛くなかったところを治療されて痛くなってしまう場合、「はたして治療がうまくいっているのか」「逆に悪くされてしまったのではないか」といった、不信感につながることも多いと思います。

 そこで、今回は「もともと痛くなかったところが治療後に痛みだす」という、実は歯科医師が患者さんからよく聞かれる不安や疑問にお応えします。

図 むし歯は自覚症状がほとんどない段階から進んでいます

歯を削って詰めたあとにしみる場合

 歯の内部の象牙質まで進んでしまったむし歯を治療したあと、白い詰めものをしたり、型取りをして金属を詰めたりした場合、治療後に冷たいものがしみたり、強く噛むと痛くなったりすることがあります。象牙質は細いチューブを寄せ集めたような構造になっており、そのチューブのなかを細い神経(象牙芽細胞)が走っています。むし歯になった部分を削る際、この象牙芽細胞も一緒に削りますので、治療後にこのような症状が出てしまうことがあります。この場合、歯が痛んだりしみたりする症状は数週間から長くても数ヵ月で消えていきますので、ご安心ください。

 ただし、むし歯が大きく、神経のごく近くに達してしまった場合は少し異なってきます。こうしたケースでは、歯科医師から「様子をみましょう」と言われることが多いと思います。むし歯が大きい場合、しみるのを防ぐために一番確実な治療は、実は神経をとることです。にもかかわらず、しみるのを放置したまま様子をみる最大の理由は、神経を取らずに温存できそうかどうか確認するためです。歯の神経には神経組織以外に毛細血管も通っている、いわば歯に栄養を送る器官でもあります。歯の神経をとっても、被せもので補強をすれば使い続けることはできるのですが、歯への栄養供給が途絶えてしまうため、健康な歯に比べて耐久性が低下してしまいます。健康な歯が生花とすれば、神経をとってしまった⻭はドライフラワーのようなものだと思っていただくとわかりやすいかもしれません。神経をとらずに様子をみた場合に、日常生活に支障をきたすような痛み(耐え難い自発痛、冷たいものや温かいものに誘発される持続的な痛み、噛んだときの激痛など)がなければ、治る可能性も十分にあります。こうしたケースでは、痛みが消えるのに2〜3ヵ月、もしくは半年ほど時間がかかることもあります。症状が気になる方は、市販の鎮痛薬の服用も有効です。

歯根の治療のあとに痛む場合

1.神経をとったあと
 むし歯が神経に達してしまったために神経をとった場合、そのあとで噛むと痛みが走るようになったり、痛みが持続したりすることがしばしばあります。神経をとったのに痛みが出るのは、「神経がうまくとれていないからではないか」と思われるかもしれません。しかしながら、神経をとる治療は神経や血管組織を切断する処置ですので、神経の太さや本数によっては治療後に痛みが出ることがあるのです。また、細菌の神経への感染が大きく、炎症がひどい場合には、歯の外側の歯根膜にある神経線維まで炎症が波及してしまうため、痛みが出る場合があります。この場合も、数週間で痛みが治まることが多いので、ご安心ください。

2.歯根の治療を開始したあと
 歯根の先端部分に炎症が起こり、「歯の根の先に膿がたまる」「神経をとったあとの歯が痛み出した」といった症状をきたした状態を「根尖病巣(こんせんびょうそう)」と呼びます。
根尖病巣の治療を開始したあと、それまではさほど痛みがなく違和感程度であったものが突然猛烈に痛み出し、腫れてくることがあります。患者さんからすると、「治療が失敗したのではないか」と不安になってしまうのも無理からぬことだと思います。これは「フレアアップ」と呼ばれ、歯根の先端部分でおとなしく眠っていた細菌が、治療に使う器具の刺激と酸素の供給によって一気に活気づき、増殖することによって起こる現象です。
 フレアアップは、歯根の治療を専門とする歯科医師が治療しても起こりうる「偶発症」とされています。細菌の急激な増殖による強い炎症のため、激しい痛みや腫れ、膿などを引き起こしますが、こうした症状は一時的なものです。抗生剤を服用していただき、治療のために使っていた詰めものをはずしたり、応急処置をほどこしたりすることによってラクになっていきます。

 以上、歯科医院で処置を施されたあとに痛んだりししみたりする原因と対処のしかたについて、少し詳しくお話しました。
 歯科治療の大半は外科的な処置です。手術後に痛みが出るのと同じように、歯科治療のあとにもある程度痛みが出てしまうことがありますが、歯科医師の説明を聞き、最後まで頑張って治療を続けてください。そして、「歯科医院はむし歯をつくらないようにするために行くところ」という予防歯科の考えかたに基づき、かかりつけの歯科医院をつくって日ごろから適切なオーラルケアに努めていただくことをお勧めします。

■参考文献

nico 2014年2月号特集「これってどうして? 治療のあとの痛みや違和感」 クインテッセンス出版株式会社

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員
いとう歯科クリニック 伊東聡

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