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噛む機能の低下は、血糖値上昇や骨格筋量低下により生活習慣病のリスク 噛む機能を適切に維持・回復しよう

むし歯などで歯を失って噛む機能が低下すると、おいしく食事できないし、消化に悪そうだし、何となく健康に悪いだろうということは、どなたにも想像がつくことでしょう。

では、噛む機能は、実際にわたしたちの健康とどのぐらい関係しているのでしょうか。

また、入れ歯やインプラントなどの歯科治療を受けると、噛む機能はどの程度まで回復するのでしょうか。

そして、噛む機能を回復することにより、どれぐらい健康増進効果や生活習慣病の予防効果が期待できるでしょうか。

噛む機能をかんたんに測定する検査が登場

噛む機能が低下した人は、カロリーの充足はできるものの健康維持に必要な栄養素の摂取が不足することがわかり、改めて噛む機能と栄養摂取の関係がクローズアップされています1,2)

噛む機能のことを咀嚼(そしゃく)機能といいます。最近、咀嚼機能を簡単にゲーム感覚で評価できる「グルコセンサー」という検査が開発され、一定の条件を満たせば健康保険で使えるようになりました3,4)

この検査では、ブドウ糖(グルコース)を含んだグミを20秒間噛んだあと10ccの水で口をすすぎ、吐き出した水溶液中のグルコース濃度を測定することによって「咀嚼機能値」を評価します(図1)。

図1

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歯の治療により噛む機能が回復

この検査で咀嚼機能に問題のない人の咀嚼機能値(正常値)は、だいたい200〜250mg/dlです(図2)。

一方、咀嚼機能値が120 mg/dl前後の人は、噛む機能が不十分と診断されます。

おもに歯周病やむし歯などで奥歯(大臼歯)を失った人の場合、咀嚼機能値は100mg/dl以下にまで低下します。この状態を放置するとお口の機能低下(オーラルフレイル)から低栄養を経由して身体全体の虚弱(フレイル)につながってしまうのです。

一方、低下した咀嚼機能値は、入れ歯で治療すると150mg/dl前後まで回復し、さらにインプラントで治療すると咀嚼機能に問題のない人のレベルまで回復する場合があることがわかりました。

今後、この検査は血圧測定などと同様に歯科クリニックに普及していくことが期待されています。

図2

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噛む機能が低下すると全身の健康に影響

では、噛む機能が不十分な食習慣がもたらす健康上のデメリットとは、どのようなものでしょうか。

奥歯(大臼歯)を失って噛む機能が低下すると、噛む力を要求されるかたい食材を食べるのを避けるようになります。

たとえば、雑穀類や全粒穀類、野菜類、肉類などを摂る量がいちじるしく不足します。

その際、問題になるのは、食後の血糖値の上昇がゆるやかな雑穀類や全粒穀類のような低GI食品の摂取量が低下することです。

やわらかいものを食べる食習慣が糖尿病を招く

一方、噛む力が低下すると、「糖質偏重食」とよばれる誤った食習慣におちいりやすくなります。

かたい食材を避け、やわらかい食材であるごはんやうどん、カレーライスなどのように高GI食品を選ぶようになると、糖質の摂取量が増加します
5)6)(図3)

また、これらの食材は噛まずに飲み込めるため、早食い、大食いになりがちになるのも問題です
7)8)

図3

図3

作成:武内博朗先生

図4

図4

作成:武内博朗先生

その結果、摂取されるブドウ糖の総量(GL:グリセミック負荷)が増え、糖質の代謝を悪化させたり、メタボリック症候群や肥満を加速させたりする要因となります7)8)9) (図4)。

実際、噛む力が低下した人は高GI食品の摂取量が増え
6)7)8)9)12) 、こうした食習慣が2型糖尿病のリスクを上げるという確かなエビデンス(科学的根拠)も示されているのです11)13)

肉類を食べなくなると寝たきりのリスクも

また、うまく噛めなくなると肉類を食べる機会が少なくなり、「タンパク質低栄養」という状態におちいることも懸念されます。

こうしたことにより、姿勢を維持したり身体を動かしたりする筋肉の減少(骨格筋減少症:サルコペニア)を招き、お年寄りが転倒して骨折し、寝たきりになることにもつながると報告されています
14)この様にお口の機能低下(オーラルフレイル)から身体の虚弱(フレイル)に直結しているのです(図5)。

図5

図5

作成:武内博朗先生

歯医者さんからのメッセージ

しっかり噛むことの大切さをご理解いただけたでしょうか。

噛む機能を回復して維持することは、おいしく食べるだけでなく、生活習慣病の予防や治療に直結し、健康寿命をのばすうえでとても大切な心がけといえます。

さあ、一刻も早く噛む機能を回復させ、生活習慣病の発症と重症化の予防に取り組みましょう。

神奈川県歯科医師会・大和歯科医師会 会員 武内 博朗

参考文献
  • 01. Wakai K et al: Tooth loss and intakes of nutrients and foods: a nationwide survey of Japanese dentists. Community Dent Oral Epidemiol. 38(1):43-9, 2010.
  • 02. 武内博朗:咀嚼機能回復が体組成・代謝の改善におよぼす影響. ヘルスサイエンス・ヘルスケア, Vol.12(2):97-103, 2012.
  • 03. 志賀博、小林義典:先進医療に導入されたチェアサイドで簡便に行える咀嚼機能検査. 東京都歯科医師会雑誌、59:479-488, 2011.
  • 04. Shiga H et al: Validation of a portable blood glucose testing device in measuring masticatory performance. Prosthodont Res Pract, 5:15-20, 2006.
  • 05. 若井建志ほか:健康寿命を延ばす歯科保健医療―歯科医学的根拠とかかりつけ医 BOOK2, Chapter5: 現在歯数と栄養素・食品群摂取との関係. 医歯薬出版, 東京, 2009.
  • 06. Zhu Y, Hollis JH: Tooth loss and its association with dietary intake and diet quality in American adults. J Dent. 42(11):1428-35, 2014.
  • 07. Yoshida M et al: Correlation between dental and nutritional status in community-dwelling elderly Japanese. Geriatr Gerontol Int. 11(3):315-9, 2011.
  • 08. Papas AS et al: Relationships among education, dentate status, and diet in adults. Spec Care Dentist. 18(1):26-32, 1998.
  • 09. Yoshihara A et al: The relationship between dietary intake and the number of teeth in elderly Japanese subjects. Gerodontology, 22(4):211-8, 2005.
  • 10. Chiu CJ et al: Informing food choices and health outcomes by use of the dietary glycemic index. Nutr Rev. 69(4):231–42, 2011.
  • 11. Schulze MB et al: Glycemic index, glycemic load, and dietary fiber intake and incidence of type 2 diabetes in younger and middle-aged women. Am J Clin Nutr. 80(2):348-56, 2004.
  • 12. 厚生労働省・健康日本21企画検討会・健康日本21策定検討会: 21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)について 報告書、2000.
  • 13. Salmeron J et al: Dietary fiber, glycemic load, and risk of non-insulin-dependent diabetes mellitus in women. JAMA. 277(6):472-7, 1997.
  • 14. 武内博朗他: 歯科発アクティブライフプロモーション21 -健康増進からフレイル予防まで-. デンタルダイヤモンド社, 64-95, 2017.