江戸時代の歯痛は、このように治した。
   ─神仏への祈り、民間療法─

 

 室町末期には、幕府医官として口中医がいた。江戸時代になり幕府や藩には、お抱えの 口歯科、口中科を専業にする医師がいて、口、喉、歯の治療をおこなっていた。しかし、 治療は上層階級やお金持ちの人に限られていた。江戸時代に虫歯で悩む人々は、痛みがうすれるように、次のような民間療法に頼ってい た。
1)神仏に祈願する  参拝、奉納、お払い、願掛け(がんかけ)
              病除けのお守り(護符:ごふ)
              僧侶・神官による加持祈祷(かじきとう)
2)おまじない      守り札、
              病封じ(やまいふうじ:祈祷師による呪術)
3)鍼、灸(はり、きゅう)
4)生薬(しょうやく)などの民間療法
4)家伝薬(かでんやく)、売薬または漢方医学

  


年寄りに聞く歯痛の俗信。
  ─明治、大正、昭和初期─

 

 お爺さんやお婆さんが子供の頃、虫歯の痛みがうすれるように、おこなっていた方法を 紹介しよう。

1)梅干しを患部に貼る
2)歯痛に効くお地蔵さんの石を借りて、痛むところをなでる
3)歯の神(白山様、戸隠神社、顎なし地蔵など)にお参りし、治ると萩の小枝で作った箸 をお礼に奉納する
4)竹筒を痛む歯にあてて、その先に火の炎をかざす
5)大根おろしの汁を痛い歯と頬の間にいれる
6)よもぎの葉か葱の白根を痛む歯でかみしめる
7)蜂の巣をすりつぶして粉にし、布に包んで侠にしたものを胡麻油にひたしておいたもの を痛む歯でかみしめる
8)蛇の抜け殻を3ミリくらいにちぎり、紙に包んで痛む歯 に押しあてる
9)ご飯に塩を少裏加えて紙に伸ばし、痛む側の頬に貼る10)茄子のへたの黒焼きをご飯で練って歯の痛むところに押し込む

                                                             

神仏に祈願して歯の痛みを止める。

 「苦しい時の神だのみ」といわれるように、庶民は歯痛をとめたい、丈夫で強い歯を持 ちたい、という願いで神仏に祈願した。歯痛の祈願は、みろく菩薩(ぼさつ)、白山神社、白山様、 戸隠明神、仁王様、歯痛観音、千手観音、歯の神様、六地蔵、あごなし地蔵、薬師如来、 稲荷、康神様(こうじんさま)、九頭竜権現(くづりゅうごんげん)、大黒様などがあり、中でも地蔵菩薩が圧倒的に多い。 祈願する時に奉納するものは、萩の小枝、竹、柳、木の箸、自分が使っている箸、線香、 大豆、いり豆、穴のあいた石、梨、よだれかけ、塩、麻がら、たばこ、楊枝(ようじ)、杓子(しゃくし)、油揚 げ、おがらなどであった。
 
 文化11年(1817年)、並木五瓶(万寿亭正二)作の『江戸神仏・願懸重寶記(がんかけちょうほうき)』には、 おさんの方(虫歯、口中いっさいの願、芝土器町善長寺:かわらけちょう)、榎坂の榎(歯の願、赤坂)、 三途川(さんずのかわ)の老婆(口中の願、浅草寺)の三つが歯痛の祈願をおこなう有名な場所としてあげ られている。

  『江戸神仏・願懸重寶記
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