日本の木製の入れ歯(木床義歯)の技術は、世界で一番古い

 平成11年8月三重県四日市で、江戸時代の代官所跡の発掘調査の現場から、他の日用品と共に約200年前の“木製の入れ歯(木床義歯という:もくしょうぎし)”がほぼ完全な形で出土した。入れ歯は、上顎用で黄楊(つげ)の木を彫ったもの(一木彫)で、歯が左右4本づつあり、奥歯の噛む部分は平坦になっている。前歯は、女性用の義歯のためお歯黒が塗られていたのか、少し黒くなっていた。

 四日市教育委員会文化課の担当者は、「当時の木製の入れ歯は庶民にも普及していたが、高価であり作りが精巧であることから、使用していたのは裕福な女性ではないか?」と話している。


 その頃の欧米の入れ歯は、食べ物を噛むことがほとんどできない、主として容貌を整えるだけのものであった。

  

  
         地元の新聞記事
 
 
 発掘された木床義歯  
  (四日市市教育委員会文化課 提供)  


              
日本最古の仏姫(ほとけひめ)の木床義歯(もくしょうぎし)

 日本最古の木床義歯は、天文7年(1538年)4月20日に74歳で亡くなった和歌山市の願成寺、仏姫(がんじょうじ:ほとけひめ:本名、中岡テイ)という尼僧のものである。この入れ歯は、黄楊の木を彫ったもので、歯の部分と一体となっていた。奥歯の噛む蔓がすり減っていることから、実際に使われていたと想像できる。 
 日本の木床義歯は、食事をしても落ちないように、歯がない上顎の粘膜に吸いつき保持するようにできており、現在の総入れ歯が顎に吸着する理論と同じである。まさに、世界に類のない「木の文化」と日本人の手先の器用さによる「独自の木彫技術」であった。


    前歯、奥歯もすべて木に彫ってある

     仏姫の木床義歯

                                                             

木床義歯はどのように作るか  ---制作過程---

 木床義歯には、黄楊(つげ)が多く使われた。黄楊は、材質が強く割れにくく、彫刻し易く肌ざわりもよいため、入れ歯の材料に適している。黄楊の木を輪切りにし、24時間煮てから水中に保存したものを彫刻し、入れ歯の形に仕上げていった。前歯の材料は、蝋石、動物の骨、象牙、人間の抜けた歯などを使い、人工歯は、黄楊の床部に動かないようにはめ込み、前歯の横に穴を開け、三味線の糸で連結して固定した。女性の入れ歯は、黒柿の木を使い、お歯黒をつけているように前歯を黒くした。顎の型とりは、密蝋に松やに、白蝋、ごま油などを混ぜたものを使って蝋型を作り、荒削りな入れ歯を合わせながら仕上げていった。細かい入れ歯の調整は、食紅を用い、当たって痛いところを少しづつ削り、精巧に仕上げていった。

1)蜜蝋を軟らかくする鍋と蝋型

2)蝋型をもとに木床義歯を彫る
3)前歯は蝋石、動物の骨、人間の抜けた歯を用いた

木床義歯を製作する器具
    (新藤恵久氏 提供 当博物館資料より)
  
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