インプラントとの正しい向き合い方 ―期待通りの治療効果を得るために―

インプラントはけっして魔法の治療法ではありません

昭和の終わりごろまでは、まだまだマイナーな治療法であった「歯科インプラント」も、インターネットの普及とともに知名度が向上しました。
インプラントとは、もともと病気や障害などの治療を目的として体内に入れる医療器具を指します。たとえば、骨折の治療のために整形外科で用いる人工関節やボルトなどもその1つです。
時代が平成から令和に移ったいま、単に「インプラント」といえば、歯を失ったときに人工の歯根をあごの骨に埋め込んで人工の歯を装着する治療法であると誰もがイメージされるようになりました。
歯科インプラントは、器具の材質や治療システムの進化、技術の進歩により効果と安全性が向上しましたが、それでもまったく問題が生じない「魔法の治療法」とはいえません。
患者さんの数が増えるとともに、これまであまり問題にされてこなかったさまざまなデメリットも浮き彫りになっています。
そこで、インプラント治療を受けてみようと思われる方々に理解を深めていただき、期待通りの治療効果が得られるよう、いくつか問題点を列挙してみました。

安全かつ有効に治療を受けるための6つのポイント

1.インプラント治療は保険診療の対象外です

歯科インプラントは、治療に成功すれば、丈夫でよく噛め、見た目も悪くないことから患者さんにたいへん喜ばれます。このため、治療を手がける歯科医師も増えています。しかし、歯科インプラント治療はほとんどが保険治療の対象外であり、患者さんの経済的負担はたいへん重いものとなります。

2. 治療期間に十分ゆとりをもって受診しましょう

歯科インプラント治療を受ける前には、エックス線診断、歯周病検査、咬合検査、唾液検査などをおこなって、お口のなかや全身の状態をくわしく調べる必要があります。
常にこれらすべての検査が必要というわけではありませんが、初めて受診したその日のうちに十分な説明や検査もなくインプラント治療がおこなわれるということはありません。
また、こうした検査だけでなく、歯みがき指導や食事指導、永続的なプロフェッショナルクリーニング、定期的な咬合審査などが必要な場合もあります。
本来、歯科インプラント治療は、急性心筋梗塞や脳梗塞のような、一刻を争う緊急性はありません。インプラントを埋入する前後から長いお付き合いが始まる治療です。
埋入したときから埋入後の管理も考慮に入れ、治療の期間と時間に十分なゆとりをもって受診してください。

3.トラブルが起きたときの対処法を聞いておきましょう

最近、駅や空港などで突然の体調不良を訴えた場合に備え、AED(除細動器)の設置が義務付けられるようになりました。普段、健康であると確信している方であっても、医療機関で受ける手術中に体調不良が起こらないとはいいきれません。
心筋梗塞や脳梗塞などにかかった経験をお持ちの方は、インプラント治療を受ける前に医療機関で検査してもらう必要があります。
また、インプラント治療を担当する歯科医師には、術中に体調不良や合併症、トラブルが発生したとき、どこの専門病院を紹介するのかを聞いておくとよいでしょう。歯科医院によっては、待合室に提携病院先などが掲示されている場合もあります。

4.インプラントは埋入したら終わりではありません

一度、インプラント体が骨と一体化すると、20年、30年と機能するのが普通です。
仮に埋入年齢が50歳で、そのときはわずらわしさの少ない固定式のブリッジがよかったとしても、70歳、80歳になったときは脳梗塞で肢体不自由になり、うまく歯が磨けなくなってしまうことだってないとはいえません。
こうした場合、ご家族や介護施設のスタッフさんがはずして磨きやすい入れ歯のようなタイプに変更するといった配慮が必要になる場合があります。
歯科インプラントは手術をしたら終わりというものではなく、お口のなかや全身状態、家族構成などに応じた管理や新たな治療が必要になる場合があるということを考慮に入れておいてください。
インプラントを埋入してから20年、30年経過する間には、患者さんが転居することもあれば主治医が閉院することもあります。新しい歯科医院に受診しても、ご自分に施術されたインプラントの種類や治療内容がわかるように「インプラント手帳」やカードを現在の主治医に作成してもらってください。
埋入したときの主治医に相談できなくなった場合、公益社団法人日本口腔インプラント学会や公益社団法人顎顔面インプラント学会の相談窓口に相談してみるのもよいかもしれません。

5.不適切な広告宣伝にくれぐれもご注意を

最近、インターネットや雑誌などでインプラント治療の不適切で過剰な宣伝広告が目につきます。
厚生労働省の医療広告ガイドラインでは、ホームページで自分や自院のことを「日本有数の症例数」「最高の技術」などと自我自賛したり、一般の歯科開業医で「インプラント科」「インプラント外来」などの標榜をしたりすることを禁じています。
上述の2つのインプラント学会会員の歯科医師は厚生労働省の医療広告ガイドラインを遵守し、2020年10月現在、インプラント専門医の広告はしていません。個人的には、どこに受診してよいのかお悩みの患者さんのため、広告可能な「インプラント歯科専門医」を厚労省に認可していただけることを期待しています。
インプラント治療を希望される患者さんは、くれぐれも飛行機やホテルなどの格安チケットを検索する感覚で安易なインターネット広告に惑わされることのないようお願いいたします。

インプラント治療は、一度受けたら長期間にわたり身体の一部として機能させなければならない治療法です。主治医から十分な説明を受け、ご家族とも話し合って納得したうえで治療を受け、快適な生活を営んでいただくことを切に望んでいます。

神奈川県歯科医師会・足柄歯科医師会会員 藤井俊治

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