歯科のレーザー治療って、どんなことをするの?

 歯科治療の際に「レーザーを使いましょう」と患者さんにお話しても、最近はそれほど驚かれなくなって来ました。以前はレーザーのことを「軍事用の機械」とか「得体の知れないもの」などと怖がる患者さんもいたのですが、いまでは一般的な歯科診療機器として定着してきたと思います。日本の歯科医院におけるレーザー導入率は、地域差がありますが30%位と云われています1)。
 ずいぶん知られるようになった歯科でのレーザー治療ですが、では実際にどのようなことをするのかは案外ご存じないのではないでしょうか?そこでここでは、歯科のレーザー治療についてわかりやすくご紹介します。

レーザーを歯科で使うメリットって何?

 レーザーは私たちの身の回りにもたくさんあふれています。例えば、コンビニやスーパーで使うバーコードリーダーもレーザーを使っています。紙に印刷するときにもレーザープリンターを使う方も多いでしょう。講演会などでスライドを指し示したりするのに使うレーザーポインターも身近ですね。もう少し強いレーザーですと、整形外科で腰痛の治療などに使われたりもします。
 歯科では、さらに強いエネルギーを持ったレーザーを用います。一つの波長の光を集めることで、瞬間的にエネルギーの密度を高めて、病的な部分に照射して治療に使うのです。組織を切開したり病的な部分を蒸散させたり固めたり、といったことに用いることができます。化学物質を用いるわけでもないのでアレルギーを起こすこともありませんし、電気メスのように通電することもありません。歯科で使われるレーザーは赤外線領域の波長で、発がん性もなく、妊婦にも安全に使用できます。
 また、悪くなっているところにぴったりピンポイントで照射することができるので、歯を削る量が少なくて済むのも大きなメリットです。さらには、歯科の治療でふだんどうしても怖さを感じやすい「キーン」というような音もなく、痛みも少なく済むので、今までよりも患者さんにとって安心感が強いのも長所です。
そうしたレーザーの特長を生かして、虫歯や歯周病の治療もこれまでとは違う次元での対応が可能になってきているのです。
さらに保険診療の適用もできるようになってきました。2008年から虫歯の処置、2010年から歯周病の処置、2018年からは軟組織の処置になどについて、それぞれレーザー治療の保険適用が認められていますので、患者さんにとっても治療を受けやすい環境が整ってきています。

レーザーを使い分けることで、的確な治療につなげる

 ちなみに、歯科治療で使われるレーザーには波長の異なるいくつかの種類があります。例えば、虫歯の治療には、歯を削り取ることが可能なエルビウムヤグレーザーというものを用いますし、歯周病の治療や軟組織の治療には、組織の状態に合わせて半導体レーザーなど4種類のレーザー機器を使い分けることになります。
 というのも、レーザー光を生体に照射すると、その波長によって組織反応が大きく異なりますので、歯科医師はそれぞれの波長の特性を理解し、レーザー機器の持っている長所を最大限生かして、治療に役立てているのです。
 歯科治療のレーザーは、波長の特性から、生体にあてると熱エネルギーになり、いわば火傷のような状態になります。ですので、治療したい組織以外には照射しないよう、細心の注意を払っています。特に目に当たると角膜や水晶体を傷つけてしまうこともあるため、患者さんも歯科医師も全員が目を保護する専用のゴーグルをつけるなど、安全には十二分に気を付けて治療を行っています2)。そうしたこともあり、日本では歯科用レーザーは医師免許・歯科医師免許を持った者でないと使用できません。
 

虫歯をレーザーで治療する

では実際にはどのように治療に使うのでしょうか?
まずは虫歯の例から見てみましょう。
虫歯にはエルビウムヤグレーザーを使います。このレーザーは表面付近にエネルギーを集中させることができ、深いところや周辺への影響がとても少ない特徴があり、虫歯の治療に向いています。
虫歯に侵された部分にレーザーをピンポイントで当てていきます。虫歯に侵されたところは、正常なところよりも軟らかくなっていて、レーザーを照射することによって優先的に削れていきます。これを「蒸散除去」といい、虫歯の部分を一気に蒸発させてしまうのです。

虫歯の部分が無くなったら、そこにプラスチックを充填します。これで治療は終了です。しかも通常は、局所麻酔も使用することはありません。患者さんへの負担はとても少なく、歯を余計に削りすぎる心配もなく、治療を終えることができるのです。

歯周病をレーザーで治療する

次は、歯周病の治療について紹介しましょう。
歯周病では、歯肉の部分に細菌が感染してしまい、腫れ上がって痛い、というのが主な症状です。これまでの治療は、局所麻酔の注射をしたうえで、メスで切開していました。しかしどうしても出血が多くなりがちでした。
こちらの写真の場合も虫歯と同じく、エルビウムヤグレーザーを使って治療しました。歯肉炎になっているところにレーザーを照射し、そこを切開して取り除きます。切開した周囲は照射の熱で組織が凝固するため、出血が少なくて済むのがメリットです。

歯並びを良くするためにレーザー治療

さらに、レーザーを使った小手術の事例もご紹介しましょう。
皆さん、自分の上唇と上の歯の間に舌を入れてみてください。上の唇から歯茎にかけて、紐のように伸びた筋があるのがわかりますよね。これを上唇小帯(じょうしんしょうたい)といいます。人によっては、この上唇小帯が太く短いために歯並びに影響してしまうケースがあります。こちらの写真の方もそうで、上の真ん中の前歯に広い隙間ができてしまっています。矯正治療では限界があります。
従来であれば、上唇小帯をメスで切除し縫合する、という治療をするようなケースです。しかしレーザーを使っての治療であれば、レーザーでピンポイントに切除しても出血はしないため、縫合する必要がほとんどありません。この患者さんの場合は、炭酸ガスレーザーを使って治療を行いました。

終わりに

歯科レーザー治療は、歯を削りすぎない、音や痛みがない、出血しないなど、さまざまなメリットがあります。レーザーの特徴を生かして、さまざまな治療に活用することが可能です。実際に受診される場合には、担当医とぜひ納得の行くまで相談されてから治療をお受け下さい。

文献
1)厚生労働省.医師・歯科医師・薬剤師調査の概況:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
2)吉田憲司、他:歯科用レーザーを安全に使用するための指針.日本レーザー歯学会誌.23:147-150.2012

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員
横溝歯科医院 横溝正幸

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