睡眠と歯科って、なにか関係があるの?

2017年流行語大賞のベストテンの中に「睡眠負債」ということばが入ったのは記憶に新しいところです。ここ数年は「睡眠」に関する書籍も増えており、睡眠に対しての国民の関心が増していることが伺えます。
しかし、「睡眠と歯科には深い関係がある」と言われてもなかなかピンとこないのではないでしょうか?
そこで今回は、睡眠と歯科とのかかわりについてお話をしたいと思います。

睡眠不足になると歯周病が悪化する!?

まず、「歯周病と睡眠不足」についてお話ししましょう。
歯周病はとても代表的な歯科の病気です。歯と歯肉の間がきれいになっていないと、そこにたまった細菌が悪さをして歯肉に炎症を起こしてしまいます。進行すると歯肉がどんどん下がってしまい、歯の土台となっている骨が溶け出して、最後は歯を抜かなくてはならなくなります。

でも、歯周病と睡眠不足はいったいどう関係するのでしょう?
実は歯周病は、糖尿病との関係が深い病気です。糖尿病になると歯周病の進行が早くなり、また歯周病になると糖尿病の血糖コントロールが悪くなっていくことが知られています。
そして糖尿病は、睡眠とも深いかかわりがあるのです。睡眠時間が短くなると、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が減少、いっぽうで食欲を増やすホルモン(グレリン)が増加し、食事の量が増えていきます。そうすると体重も増え、血糖コントロールも悪化してしまいます。また、短時間の睡眠では、インスリンの働きを抑えるホルモンなどが増えるために、インスリンの効きが悪くなり、血糖値が上昇してしまいます。
このように睡眠不足になると、血糖のコントロールが悪くなり、糖尿病のリスクが高まります。そのため、糖尿病と関係の深い歯周病までもが、悪化してしまうことが考えられるのです。

ですので、歯周病の治療には、口の中の清掃だけでなく、睡眠をきちんと取ることが大事になります。自分にあった睡眠時間を確保し、また起床直後に太陽光を浴びることで体内時計をリセットするなど、睡眠の量と質どちらにも気をつけて生活していただければ、より良い結果が得られると思います。

睡眠時無呼吸症候群と、歯科の知られざる関係とは?

もう一つ、「睡眠時無呼吸症候群と歯科」の関係についてもお話ししましょう。
最近は「睡眠時無呼吸症候群」という名前を耳にすることも多くなってきたのではないでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群とは、読んで字のごとく、睡眠中に一時的に呼吸が止まってしまう病気です。そうすると睡眠の質が悪くなったり睡眠時間が不足してしまいます。
こうした睡眠障害が原因で、運転者が交通事故を起こすケースもあります。そのため2014年には道路交通法が改正されて、自動車免許の申請や更新時に、睡眠障害について申告が義務付けられるようになりました。未申告の場合には罰則が設けられています。
また、睡眠時間が短くなると、糖尿病ばかりでなく、肥満、高血圧や心臓病など他の生活習慣病をも招くことが、最近の研究で明らかにされてきています。

ではなぜ睡眠中に呼吸が止まってしまうのでしょうか。
それは、寝ているとき、肺への空気の通り道である気道に舌が落ち込んでしまったり、またそもそも首周りの脂肪がたくさんついてしまったり扁桃肥大を起こしたりしているために、気道のスペースが狭まったり塞がれてしまうことで起こるのです。これを閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)といいます。
日本人には顎の小さい人が多く、そのため骨格的にどうしても気道が塞がりやすいため、肥満の人に限らず痩せていてもOSAの人がいます。

歯科医師は日ごろから、口の中や顎を専門的に診ています。ですので、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすような骨格的な不具合を発見しやすいのです。
また、診療台や待合室でイビキをかいて寝ている人や、日中なのに猛烈な眠気を帯びた人など、日常の診療現場でもOSAの症状を呈している人を見つけやすい立場でもあります。
さらには、OSAの治療そのものにも、歯科医師が活躍することも多いのです。そのことをさらにお話していきましょう。

睡眠時無呼吸症候群、歯科での治療とは?


まずは、睡眠時無呼吸症候群なのかどうか、しっかりと検査、診断をする必要があります。これは医科で行います。ですが、もちろん歯科医師もこれらの検査や診断について十分に共有しています。
OSAであるとの診断が確定したら、治療に移ります。代表的な方法としてはまず、鼻にマスクを装着し、狭くなっている気道を圧力によって押し広げる装置を使って、睡眠中の呼吸をサポートする治療があります。
そしてもうひとつが、マウスピースをつける治療です。マウスピースは、口腔内装置とも呼ばれます。この治療のときが、歯科医師の出番です。患者さんの口の中の検査を行い、マウスピースをつけるのに適した状態かどうかを確認します。そして患者さんに合った歯の印象とかみ合わせになるよう、熟知した歯科医師側が製作に取りかかります。そして調整を経て、口の中にマウスピースをつけて、口の中の気道をしっかり作ることで、OSAを治療していくことになります。もちろん、こうした治療の際には、医科チームとの情報共有は欠かせません。

子どもの歯科治療と、睡眠時無呼吸症候群


最近では子どもでも、大人と同じような睡眠時無呼吸症候群の症状を呈している子を見かけます。
子どもの症状としては、夜尿や起床時の不機嫌、長時間にわたる昼寝、発育の遅れもみられます。落ち着きがない、多動、人格の変化による攻撃的な行動を引き起こすこともあります。長時間のOSAが続くと胸郭の変形や、成長ホルモンの分泌が低くなってしまうために低身長になったりすることもあります。また、口呼吸でいつも口を開けていると、口を閉じる筋肉が弱って上唇が富士山のようになり、目と目が離れ、全体的にしまりのない顔になります。アデノイド増殖症といって、鼻とのどの間にあるリンパ組織(アデノイド)が極端に大きくなると、気道が狭まって、こうした顔つきになりがちです。

治療としては、症状がひどい場合には、アデノイドや口蓋扁桃を取り除く手術をします。
いっぽう、歯科での治療としては、上あごをネジの力で広げる装置「急速拡大床」などを用いたり、またマウスピースを使って口の周りの筋肉のバランスを整えることで鼻呼吸を促す「口腔筋機能療法」の報告もありますが、コンセンサスは得られていません。

しかし、慢性的な口呼吸は、あごの成長に影響する可能性があるとも言われています。もしあごが小さいままだと、将来中高年になってからの睡眠時無呼吸症候群につながるかもしれません。
睡眠医療の現場では、そうしたリスクのある子どもについては、若いうちからあごがしっかり広がるような適切な発育のために手を施すことで、呼吸にまつわる問題点を先手で改善しておくことが重要、という考え方が主流となりつつあります。
歯並びやかみ合わせ、あごの発育の矯正を行うときには、見た目の整いだけでなく、口の周りの筋肉の動きや、呼吸などもしっかり安定させるように進めることがとても大事です。歯科医師は、それらに熟知した立場として、今後は呼吸や嚥下の訓練も担当するなど、治療の中心的な役割を担うことになっていくことでしょう。

引用文献
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神奈川県歯科医師会・茅ヶ崎歯科医師会会員 宮 恒男

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