歯という漢字から歯を考える



口の中にあり、ものを噛み砕く、人体で一番硬い組織である【歯】。旧字体では「齒」と書きます。
【歯】という漢字の起源は今から四千年ほど前に遡ります。中国の殷王朝時代の甲骨文字
では、と書きました。口の中に歯が並んでいる様子を表す象形文字でした。甲骨文字から少し後の時代で使用された金文(きんぶん:青銅器の表面に鋳込まれた文字)では、「止」という字が上について「齒」の元の字となりました。歯はシと発音されていたため、同じくシと発音されていた「止」をつけた状態となりました。この様に、漢字の中に同じ音の漢字があるものを形声文字と言います。

【歯】の読み方は、音読みが「シ」、訓読みが「は」「よわい」です。【歯】の部首は「は」「はへん」です。漢字の左側に使われる場合は、「はへん」と呼びます。
歯が部首になっている漢字で有名なのは年齢の「齢」です。はへんと「令」を組み合わせた漢字です。「令」は令和の元号にも使用されています。「令」の文字には立派、清らか、めでたいなどの意味があります。優れた娘、息子を意味する御令嬢、御令息という言葉で用いられています。歯が次々と生えて、歳を重ねることはめでたいことであるとして「齢」という字が生まれたのかもしれません。お子様の歯が生えたら、有難いことで立派に成長していると喜んでください。
歯が部首になっている漢字は他にもあります。「齲」という漢字です。あまり一般には使用されなくなっていますが、むし歯を意味する漢字です。むし歯のことを、専門的には齲蝕(うしょく)と呼びます。はへんに「禹(う)」を組み合わせた漢字です。禹は、中国の殷王朝時代より、更に前の時代である伝説上(諸説あり)の夏王朝の王様の名前でした。元々は蛇やトカゲなどの爬虫類をさす文字です。むし歯の原因となる、ミュータンス連鎖球菌は丸い菌が繋がった蛇のような形にも見えます。「齲」という漢字を表しているようで面白いですね。

 

ミュータンス連鎖球菌
「齦」という字は歯ぐきを意味します。歯学部の教科書ではたまに、歯齦という歯ぐきを意味する言葉で登場します。はへんに「艮(こん)」を組み合わせた漢字です。艮の意味は一箇所に留まる、動かないです。木の動かない部分は「根」、心に残る辛い思いは「恨」、消えない傷は「痕」です。歯ぐきは、確かに動きません。ただし、歯周病にかかると歯ぐきも腫れてブヨブヨに動いてしまいます。齦の文字の様に、強く健康な歯ぐきを維持したいものです。

熟語では「齟齬(そご)」という、はへんの漢字があります。齟は咬むという意味で、齬は、不規則な歯で入れ違うという意味です。何回咬んでも、しっくりいかない状態から転じて、意見や見解にずれが生じて上手くいかない様子を示します。良い咬み合わせで審美的にも機能的にも、しっくりいっている状態が理想ですよね。
「齷齪(あくせく)」という熟語もあります。齷は狭いという意味で、齪はゆとりがないという意味です。2文字並べて、歯と歯の隙間が狭く、歯並びが悪い様子を表す言葉でした。そこから転じて、細かいことを気にして余裕がないことを表す言葉になりました。
歯を含む漢字は意外と多くあります。昔も現代も、歯に対する悩みは尽きなかったのでしょうか。現代の歯に関するお悩みは、かかりつけの歯医者さんにご相談ください。

参考文献 円満字二郎著『部首ときあかし辞典』株式会社研究社 2013年

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員 川原綾夏

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