ママになるあなたに

執筆者
神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員 岡田 誠二

定期的な歯科受診をお勧めする理由

妊娠したことを市区町村に届け出ると、いわゆる母子手帳が交付されます。
母子手帳は「母子健康手帳」という正式名称が示すように、お母さまの健康とお子さまのすこやかな成長を守るための大切な記録です。

この手帳には、お母さまの妊娠から出産までの経過や出生後のお子さまの定期検診、予防接種などのほか、「妊婦歯科健診」の記録を記載するページがあります。
妊婦歯科検診というのは、歯科医師が妊娠中のお母さまの歯とお口の状態を検査し、必要に応じて治療や指導をおこなうものです。

今回は、妊娠・出産前後とそれ以降の歯科医院への定期的な受診が大切な理由についてお話しします。

 

妊婦検診だけでなく妊婦歯科健診も

妊娠中のお母さまには、行政からも「妊婦健診だけでなく妊婦歯科健診も受けてください」というお話があると思います。しかし、日ごろから家事や仕事に忙しくされている方々のなかには、内心「そんな時間なんてない!」と思われる方も少なからずおられることでしょう。

確かに、出産はお母さまが心身ともに大きな負担に耐えて大切なお子さまをこの世に迎える、たいへんなライフイベントです。ご自分のことがあとまわしになるのも、無理はないのかもしれません。

特に、出産後のお母さまは子育てで目の回るような忙しさ、ご自身の歯科受診など「二の次、三の次というか、ホント無理!」とおっしゃる方々も多くおられることでしょう。

しかし、歯科医師としては、そういう時期だからこそ、お母さまを守るためにも、お子さまを守るためにも、出産前後とそれ以降の定期的な歯科受診をお勧めしたいと切に思います。

 

妊娠中と出産後は歯の健康に対しても重要な時期

個人的な印象ですが、歯科受診をされている30歳以降の方々に「いつごろから歯が悪くなりましたか」とお尋ねすると、「出産前後」とおっしゃる方がとても多いのです。

妊娠中のお母さまは、ホルモンバランスが大きく乱れるとともに、カルシウムなどの歯に大切な栄養素が赤ちゃんの成長のために吸収されます。このため、出産後のお母さまは栄養状態が悪化し、免疫力も低下します。

ホルモンバランスの乱れは歯周病の悪化につながり、カルシウム不足や免疫力の低下も歯周病とむし歯の発生に大きな影響を及ぼします。

さらに、育児によるストレス、夜間の授乳などによる生活リズムの乱れは歯の健康に大きな影響を与えることになります。出産されるお母さまは、まさしくご自分の身を削り、命がけでお子さまを迎えるのだと思うと頭が下がります。

だからこそできることをしていきたいというのが、私たち歯科医師の切なる願いなのです。

 

信頼できるかかりつけの歯科医師を早く見つけて!

では、すこやかな妊娠・出産を望まれる方々はどのようにすればよいのでしょうか。一番大切なことは、できるだけ早くかかりつけの歯科医師を見つけることだと思います。

それも妊娠してから見つけるのではなく、もっと早い段階から見つけて定期的に受診していただければ、妊娠前後の歯やお口の経時的な変化がより早くわかり、適切に対応することができます。

妊娠中は、つわりや嗜好の変化などにともなうお口のトラブルがみられることもあります。こうしたときにも、歯科衛生士に相談することができれば、少しでも安心して過ごすことができるでしょう。

さらに、お母さまがお口の健康維持に努めることによりおなかにいる赤ちゃんにもよい影響があります。

 

すこやかな妊娠・出産・育児に臨むために

加えて重要なのが産後の歯科健診です。

妊娠中はそれなりに自分の身体に気を遣うことができますが、産後ともなれば目がまわるような忙しさと疲労、ストレスで歯科を受診する時間を見つけられないかもしれません。

しかし、こうした時期にこそ歯科医院を定期的に受診して歯のお掃除や早めの歯科治療を行うことで、お母さまの健康維持に大きく寄与することが期待できます。

ただし、妊娠中や臨月期の歯科治療には内容によっては制限があり、おなかが大きくなったことで治療に適した体勢をとることが難しかったり、使用できる医薬品が限られたりすることがあります。

このためにも、早めに信頼できるかかりつけの歯科医を見つけて定期的に受診されるとよいでしょう。

後悔先に立たず、ぜひこれまでお話ししたことを頭の片隅に置いていただき、すこやかな妊娠、出産、育児に臨んでいただければ幸いです。

 

執筆者情報
岡田 誠二
神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員
セントルカ眼科歯科クリニック

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