歯列矯正で「マウスピース矯正」をお考えのあなたへ

メリット、デメリットをよく考えて!

前歯の歯並びが気になるけれど、従来の「ブラケット矯正」では歯の表面のワイヤーが目立つため、なかなか踏み切れないという方々もおられることでしょう。
そのような方々にとって、透明な樹脂製のマウスピースを交換しながら少しずつ歯並びを治していく「マウスピース矯正」は魅力的な選択肢と思われるかもしれません。しかし、ブラケット矯正、マウスピース矯正にはそれぞれメリットとデメリットがあり、患者さんの条件に適した方法を選択する必要があります。

マウスピース矯正のメリット、デメリット

マウスピース矯正のメリットは、2つあると思います。
1つは、ブラケット矯正のように歯列矯正のための装置が目立つことがないため、周囲の人々に知られずに歯並びを矯正できることです。
もう1つは、マウスピースの脱着ができるため、ブラケット矯正に比べ歯みがきがしやすいことが挙げられます。

一方、マウスピース矯正には、ブラケット矯正に比べ、次のような弱点も指摘されています。
1つには、歯並びを大きく矯正する必要がある場合には向いているとはいえず、ブラケット矯正のほうが有利だということです。もう1つは、取り外しが自由にできるため、使わなければもとの歯並びに戻ってしまい、治療により時間がかかることもあります。
歯列矯正を行う歯科医師の学会である公益社団法人日本矯正歯科学会では、マウスピース矯正(アライナー型矯正装置)に関する治療指針を一般に公開し、次のように言及しています1)2)。

1.マウスピース矯正に対する社会の期待は大きいものの、すべての症例を治せるとは考えにくい。
2.使用の適否の判断や不測の事態への対処、治療結果は、治療を行う歯科医師の責任となる。
3.このため、マウスピース矯正を行う歯科医師は、矯正診療に関する専門的教育を修めた上で、高度な診断能力、治療技能、経験を有していることが不可欠である。

期待通りの治療結果を得るために

私自身、マウスピース矯正が日本に普及し始めた当時は、従来のブラケット矯正にとってかわる治療かもしれないと感じたものです。しかし、実際にはそうなりませんでした。このことは、やはり歯列矯正を行う多くの歯科医師が、マウスピース矯正では必ずしもブラケット矯正と同じような治療結果が出ないと感じていることのあらわれではないでしょうか。

ブラケット矯正でも、施術する歯科医師によって治療結果に差が出てきます。
私の印象では、優れた治療結果を求める歯科医師ほど、マウスピース矯正でブラケット矯正と同じ治療結果を出すのが難しいと感じているように思います。
逆に言えば、ブラケット矯正の治療結果があまり良好でない歯科医師にとっては、マウスピース矯正でもブラケット矯正とほぼ変わらない治療結果が出せるということになってしまうかもしれません。
したがって、マウスピース矯正をお考えの方々にとっては、施術する歯科医師がブラケット矯正で良好な治療結果を得られているかどうかも、歯列矯正の方法を選択するうえで重要な判断材料になると思います。

歯医者さんからのメッセージ

歯列矯正にかぎらず、医療にはさまざまな方法があり、それぞれにメリット、デメリットがあります。
歯列矯正についても、歯科医師と患者さんの適切なインフォームドコンセントのもと、ブラケット矯正とマウスピース矯正のメリット、デメリットをしっかりと理解したうえで治療法を選択することが大切です。

■参考
1)公益社団法人日本矯正歯科学会ホームページ「アライナー型矯正装置による治療指針」http://www.jos.gr.jp/medical/file/aligner_pointer.pdf
2) 日本矯正歯科学会からのおしらせ「アライナー型矯正装置による治療指針 一般公開にあたって」http://www.jos.gr.jp/news/2017/0323_00.html

執筆者のご紹介
高橋滋樹

神奈川県歯科医師会・秦野伊勢原歯科医師会 会員

〒257-0035
神奈川県秦野市本町1丁目 4-8
高橋矯正歯科医院 院長 高橋滋樹

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