歯科と児童虐待(ネグレクト)

学校歯科健診で早期発見して対策へ

 学校や幼稚園、保育園などで新年度がスタートすると、ほどなく始まるのが健康診断です。
 文部科学省のホームページを見ると、児童、生徒の健康診断の目的について、次のように書かれています1)

 1.学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的とし、子どもの健康の保持増進を図るために実施するもの。
 2.個人を対象とした確定診断を行うものではなく、子どもが健康か否か、疾病や異常の疑いがあるかという視点で選び出す「スクリーニング」の性格をもつ。

 平たくいえば、「子どもたちが健全に学校生活を送るために健康上の問題がないかどうかを調べ、問題があれば医療機関への受診を勧める」ということになるでしょうか。

歯科の健康診断でネグレクトの可能性が推察できる

 健康診断は、市区町村の教育委員会が主体となり、学校医、学校歯科医が協力して実施することになっています。
 歯科の健康診断では、主にむし歯や歯肉炎(歯周病)の有無、歯ならび、かみ合わせ、清掃状態、粘膜疾患の有無などを診ます。

 もちろん上記のような診断はとても大切で重要な事ですが、私自身、学校歯科医として多くの歯科の健康診断を行っていると、子どもたちがそれぞれどのような家庭環境で育っているかが推察できることがあります。
 そういう理由から歯科の健康診断ではもう一つ大事なことがあります。それは、子どもたちが児童虐待・放棄などのいわゆるネグレクトを受けている可能性を察知する事です。

発見しにくいネグレクトを歯科医師が早期発見

 ネグレクトは、育児放棄や育児怠慢といわれる児童虐待の1つです。
 具体的には、保護者が子どもに食事を与えない、着替えや入浴をさせずに不潔なまま放置する、病気やケガをしても病院に連れて行かないといったことがネグレクトに当たります。
 全国の児童相談所に寄せられるネグレクトの相談件数は年々増加の一途をたどり、平成30年度はおよそ3万件にも上っています2)(表)。

 児童虐待には身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクトがありますが、このなかでも特にネグレクトは当事者以外の人々からは発見しにくいとされています。
 このため、実際には児童相談所への相談件数をはるかに超える人数の子どもたちがネグレクトを受けている可能性があります。

 こうした状況のもと、歯科医師がネグレクトを発見する率は6割にもおよぶとみられており、その重要性が叫ばれています。

ネグレクトを受けている子どもたちはむし歯の罹患率が高い

 歯科医師がネグレクトに気づくポイントとしては、未処置のまま放置されたむし歯が多数あったり、一部ではなく多くの歯の表面にむし歯の兆候がみられたり、ひどい歯肉炎 がみられたりすることがあげられます。
 実際、さまざまな調査の結果、ネグレクトを受けた子どもたちはむし歯の罹患率や未処置率が高いことが知られています3)

 むし歯や歯周病の主な原因は、生活習慣によるものです。
 子どものむし歯は、保護者が育児にあまり積極的でなく、歯みがきをしない、しあげ磨きをしない、あるいは甘いものをあげていれば子どもが静かになるので漫然と与えるといった不適切な生活習慣が続けば、当然のことながらひどくなります。

 以上、歯科とネグレクトについてお話ししました。
 歯科医、学校歯科医が、日常診療や健康診断を通じて子どもたちの心身の健康を守る役割を担っていることをご理解いたたければ幸いです。

参考

1)文部科学省「学校における健康診断について」平成30年5月24日
2)厚生労働省「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談件数〈速報値〉」
3)日本学校保健会「学校保健」歯科保健から見た児童虐待(ネグレクト)

神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員
セントルカ眼科・歯科クリニック 岡田 誠二

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