親知らずは抜かなくちゃダメ!?

抜歯が妥当と考えられたら手術を

一般の方々から、「親知らずにむし歯がある場合、早く抜歯すべきなのでしょうか」というご質問をいただくことがよくあります。
今回は、こうした疑問にお応えします。

親知らずは「知歯」「「第3大臼歯」ともいわれ、上下左右の一番奥の歯肉に18~20歳ぐらいから生えてくる奥歯のことです。
真ん中の歯から数えて8番目の奥歯なので、歯科医や歯科衛生士は「8番(はちばん)」と呼んでいます。

「人生50年」といわれた時代、両親が子どもにこの歯が生えてくるのを知らずに亡くなることが多かったため、この名がついたといわれています。

歯ぐきに水平に埋まっている場合は手術を考慮

上下左右に存在し、通常、右上8番、左上8番、右下8番、左下8番の4本が生えてくる場合が多いです。
いま、「多い」と申し上げたのは、すべての人に親知らずが4本揃って生えてくるわけではなく、4本揃わない場合も少なくないからです。
実際、最近では親知らず4本がすべてないという若い方をお見かけすることも珍しくなくなりました。

その理由の1つは、現代人が昔に比べて軟らかいものを食べるようになり、顎がどんどん小さくなってきたことが挙げられます。
小さくなった顎に新しい奥歯が4本ともきれいにまっすぐ生えるのは難しく、4本揃わなかったり、斜めに生えたり、水平に生えたりすることが多くなりました。
また、親知らずが歯ぐきに水平に埋まった状態を、歯科用語で「水平埋伏智歯(すいへいまいふくちし)」と呼んでいます。

こうした状態の親知らずには食べものが詰まりやすくなり、歯みがきも不十分になって、最終的にはむし歯や歯肉の腫れを引き起こしてしまいます(図)。

図 親知らずがトラブルになりやすい理由

口腔外科専門の歯科医とインフォームド・コンセントを

親知らずだからといって、すぐに抜歯しなくてはいけないというわけではありません。しかし、将来、むし歯や歯肉の腫れなどの症状を起こす可能性が高い場合は抜歯が妥当と判断されることがあります。
一般に「親知らず=抜歯」というイメージが一般的に定着しているのは、親知らずが歯や歯肉のトラブルを引き起こすことが多いからというわけです。

もう1つの問題は、親知らずがトラブルを起こしたときには抜歯をするときに技術的な困難をともなう場合が多いということです。
先述の水平埋伏智歯を抜歯する場合、歯肉を切開し、歯が埋まっている顎の骨を一部削除しつつ、歯そのものも分割して顎の骨からくり抜くような外科手術が必要になります。
術後1週間程度はかなりの顔の腫れや辛い痛みが続く場合が多く、術後の不意な出血にも対応できる設備も必要です。

また、顎の骨の内部に走行している神経に親知らずの根の先端が近接していると、抜歯の際にごく稀ですが神経に傷をつける可能性もあり、その場合は下唇周囲の皮膚に知覚麻痺が出現することもあります。
親知らずを抜歯したいとお考えの際は、かかりつけの歯科医の先生に口腔外科を専門とす先生をご紹介いただき、治療方針やどの程度のリスクがあるかなどを十分に相談したうえで手術に臨んでいただくことをお勧めします。

参考文献

塩田重利 監修 最新口腔外科学 第4版 医歯薬出版 東京 1999
吉増秀実 デンタルエマージェンシー 実例から学ぶ抜歯のトラブルとその対策 砂書房 東京 2007

神奈川県歯科医師会・相模原市歯科医師会会員
ふるかわ歯科クリニック 古川信也

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